日本即興コメディ協会のブログ

Yes, And(イエス・アンド)で心理的安全性を育むリーダーになる

心理的安全性研究の第一人者であるハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によると、心理的安全性を育むためのポイントは、

  1. サーバント・リーダーシップ
  2. リーダーのコーチング
  3. 上質な人間関係

の3つとのこと。この内容からいっても心理的安全性とは、リーダーシップの話だと考えて良いでしょう。そして、文字としてサラッと書くには簡単なのですが、この3つをリーダーとして自らのチームにおいて実践するのは容易いことではありません。

 

そこで、今回はチームの心理的安全性を醸成するといわれているインプロ(即興コメディ/演劇)から、エドモンドソン教授のいう、心理的安全性を育むリーダーシップについて考えてみたいと思います。

インプロはビジネスやリーダーに役に立つのか?

インプロ(即興演劇/コメディ)のショーでは、複数人で文字通り何もないところからシーンやストーリーを創造します。実は我々が職場などでチームを形成することとインプロには高い関連性があります。ひとりでできることよりも大きなことを他の人とパートナーシップを組んで実現することは、インプロの舞台でやっていることと差はありません。要するに、舞台上で有用な即興のスキルは、ステージを降りても機能するチームを作るのに非常に役立ちます。その一つの効能にチームの心理的安全性の醸成があります。

インプロのゴールデンルール、Yes, And(イエス・アンド)

インプロのショーでは打ち合わせや台本はありませんが、その訓練は行います。その一つにアイデアを生み出すためのトレーニングがあります。即興で繰り広げられるシーンでアイデアが出てこないことほど困ることはありません。

 

インプロの演者は、アイデアを迅速に生み出し、他の人のアイデア創出に貢献するようにトレーニングされています。その訓練、インプロのいろはの「い」である Yes, And について考えてみます。

Yes, And (イエス・アンド)はインプロのゴールデンルールとして、また、コミュニケーション手法として知られています。相手のアイデアや意見や感情を一度まるっと受け取り同調し、考えていた自分のアイデアや意見や感情を一度脇に置いておき、相手にインスパイアされたアイデアや意見や感情を付け加えて返すコミュニケーション手法です。

Yes, And をもう少し踏み込んで考えてみる

Yes, And をビジネスシーンで活かすためにもう少し踏み込んで考察したいと思います。

 

Yes(肯定) は、仲間を受け入れ、チームへの貢献度を高めます。Yes は心理的安全性と言っても良いかもしれません。インプロの舞台上では、年齢、性別、能力、性格などに関係なく、プレイヤー全員が平等です。安心安全な空間を作り平等な場で、仲間やその言動を100%そのまま受け入れます。そこには予め生じた評価や判断、そして失敗を非難されたり、孤立してしまったりする恐怖もありません。

 

And(付け足し、貢献)は、価値のある仕事やアイデアでチームに貢献するためにあります。And は、仲間の内なる能力を引き出すと言っても良いでしょう。それは、Yes だけで仲間に全てを押し付けることではなく、仲間の仕事を受け入れ、自らの貢献を積み重ね、仲間の前に現れる困難全てに対し一緒にサポートし、次のステージへと昇華させるものなのです。

チーム全体に Yes, And を浸透させると…

Yes, And を深く考えましたが、それをチームに浸透させるとどのようなことが起こるのでしょうか。

チーム全体が Yes, And を受け入れ、それそれが浸透すると学習する組織へと変化します。チームの成功に個々人が関わるようになり、チーム全員の強みにフォーカスが当てられ、それが引き出されるようになります。個人的なエゴや不安は極限まで取り去られ、自らだけではなくチームを信頼するようになります。チームの成功とその目標に集中し、チーム全体が一緒に課題を受け入れ、乗り越えるのです。

今すぐリーダーとしてできること

それでは、心理的安全性を育むリーダーとして、まずできることは何かを考えてみましょう。

 

「君は仕事が遅いから」、「どうせわかってないから」、「俺に従ってれば良いんだよ」、口には出さないが、心の中ではそう思って部下に接している方も多いのではないでしょうか。

 

「考えていた自分のアイデアや意見や感情を一度脇に置いておき…」とサラッと前述しましたが、リーダーシップの観点からはここが難しいと考える方も多いようです。リーダーがプレーヤーとして優秀であればあるほど、予め「答え」を持っています。予め答えを持っていると、部下との会話は共創ではなく、部下の理解度の確認や評価になりがちです。

 

昨日と同じことを間違いなくやっていれば安心だった時代であれば、これでも良かったかもしれません。しかし、今は独りのリーダーだけが正しい答えを持って突き進むことができるほど世の中は単純ではありません。変化が激しく不確実性が高く予想がつきにくい世の中のため、様々なバックグラウンドや技能を持った多様性の高いフラットなチーム全員で課題に取り組んで初めて立ち向かうことができる時代なのです。

 

また、リーダーが答えを持つことによって部下のやる気を削いてしまうこともあります。部下に意見を聞くフリをして、毎回 Yes, But で自分の答えに引き込んでしまうと、人はこう考えるようになります。「はい、はい、どうせあなたに答えがあるんでしょ。だったら対話する意味ないよね…」と。そうするとリーダーがたとえ間違っていたとしても、盲目的に言われたとおりに(リーダーの答え通りに)行動するようになります。

 

Yes, And とは仕事のできるリーダーにとって少々面倒なコミュニケーション手法かもしれません。しかし、まずは、そのマインドセットを訓練するために自らの答えは一旦脇に置いて「Yes(肯定)」してみましょう。Yes には、「いいね」、「そうしよう」、「ありがとう」、「それはちょうど良い」…など様々な言い方があります。その時々にあった言い方で、まずは肯定してみましょう。そして可能な限り建設的なアイデアを付け足してみましょう。1日の始めに「今日は1日 Yes, And の日」と決めて実践してみるのも良いでしょう。

 

リーダーとして明確な目的与え、そして予め誰かによって用意された答えではなく自ら導き出した活動により自主性を持たせます。また、その成長期待し、見守ることにより自発性を持った部下に変わり、モチベーションを高く保つことができるのです。

まとめ

Yes, And がリーダー、そして職場全体で学習され、奨励されれば、チームには、良い意味で積極的にチャレンジ(リスクを取る)する、失敗に対応するなどの方法の強力な共有体験が発生します。それは、心理的安全を促進する考え方、行動、およびスキルを試し、向上することに繋がります。

 

インプロでは常に心理的安全を必要とし、またそれ醸成することができます。

 

皆さんの組織で直ちにインプロを実施することは、なかなか難しいように思われるかもしれません。しかし、皆さんの言動や行動全てにマニュアルがなく、準備できることと準備できないことを行き来しているとすれば、心理的安全性の醸成にインプロやそのゴールデンルールである Yes, And を試してみることは、それほど悪い選択ではないとは思いませんか?


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