怒涛の年末イベントラッシュに向け、準備に余念のない日本即興コメディ協会の加古です。
現在、働き方改革の推進プロジェクトとの連携を進めさせていただいております。そんな中で、ある記事に目がとまりました。それは、「Googleの「最高の上司」がチームの生産性を高めるためにしていること」と題した記事でした。Google 先生のことですので、さぞかしテクノロジーを駆使した内容なのかと予想させられましたが、その内容は、至って人間らしいものでした。
Oxygen と名付けられたそのプロジェクトは、1万人以上の Googler (Google の社員)を調査し、最高の上司像をデータで浮き彫りにしました。
データに基づいた結果でしたから、ペイジとブリンも納得せざるを得なかったんですね。その調査で導き出された上司像は、以下のようなものでした。
- 専門知識を持った良いコーチである
- チームを勢いづけ、マイクロマネジメントをしない
- 部下が健康で過ごし、成果を挙げることに関心を払う
- 生産的かつ成果主義である
- チームの良き聞き手であり、コミュニケーションを活発に取る
- 部下のキャリア形成を手助けする
- 明確なビジョンと戦略を持つ
- チームにアドバイスできる技術的な専門知識を持つ
「Googleにおける最高の上司」を一言で表すなら、自分自身が直接的にパフォーマンスを発揮する人ではなく、「部下が最大の成果を挙げるための場作りができる人」。
革新的なプロダクトは、一人の突出した上司がいるチームではなく、同じスキルレベルを持った部下たちが相互に刺激し合うチームから生まれやすいという研究結果もあります。
出典: Doda, 「Googleの「最高の上司」がチームの生産性を高めるためにしていること」, 2017/05/30
ペイジも納得の Google における最高の上司像は、応用インプロ(即興コメディ/演劇の教育手法)にとって非常に示唆に富むものでした。それは、インプロがこれらの上司像を目指す人に寄与できると考えられるからです。
理想の上司像からインプロが寄与できるものとして、
- 専門知識を持った良いコーチである
- チームを勢いづけ、マイクロマネジメントをしない
- 部下が健康で過ごし、成果を挙げることに関心を払う
- チームの良き聞き手であり、コミュニケーションを活発に取る
- 部下のキャリア形成を手助けする
出典: Doda, 「Googleの「最高の上司」がチームの生産性を高めるためにしていること」, 2017/05/30
があります。
インプロの基本精神やスキルである、
- Yes, And ・・・ 肯定的に受け取り、アイデアを付け足して相手に返す
- Give Your Partner a Good Time ・・・ 自分ではなく相手にフォーカスし、良い時間を与える
- Active Listening (積極的傾聴)・・・単に聞き役に徹するだけではなく、積極的に聴き、リアクションする
- チームビルディング・・・エクササイズで心理的安全性を醸成し、より良いチームを作る
などが、Google の導き題した理想の上司像に近づける手助けをしてくれます。これらは、インプロを通してトレーニング、そしてマインドセットとしてインストール可能な能力なのです。
理想の上司像、そしてアンサンブルという考え方
当ブログでは、以前に「Google が突き止めた生産性を高める唯一の方法「心理的安全性」 の作り方」として、心理的安全の重要性とインプロを応用したその醸成方法について書きました。今回の「理想の上司像」と生産性を高める「心理的安全性」を併せて考えてみたいと思います。
心理的安全性については過去記事をぜひ参考にしていただければと思いますが、今回はインプロのリーダーシップ像、チーム像を言う「アンサンブル」をご紹介します。
インプロと日本で略されている即興コメディや即興演劇の世界では、明確なひとりのリーダーを予め設定することはあまりありません。これは、ショーを成り立たせる上で、ひとりのリーダーでは負担が大きすぎること、創造性が狭まる、更にネガティブな関係性(上下関係や強いリーダーシップ)が見え隠れするとシーン自体がつまらないものになってしまう、と考えられます。
そこで、インプロの世界では、リーダーとそのフォロワーが適材適所で有機的に入れ替わるチームの状態「アンサンブル」を醸成するトレーニングを実施します。アンサンブルはもともと音楽用語で2人以上が同時に演奏することをいいます。このフランス語は 英語の Together に訳され、一緒に創るという意味があるそうです。ひとりの人が強力なリーダーシップを常に発揮し、引っ張っていくチームとは全く違うイメージがあります。
アンサンブルを体感するエクササイズ
「Go, Stop, Melt」というエクササイズがあります。
複数の人が広めの会議室などで、思い思いの方向に「Go」の掛け声と共に歩きだし、誰かの 「Stop」の掛け声で停止し、更に「Melt」の掛け声で溶けだす(真似をする)、というエクササイズです。
声を掛ける/動作を変える人がリーダー、それに呼応する人がフォロワーとし、その2つの役が入れ替わっていくことを体感します。
掛け声はいつ誰が発しても構いません。これを数分ランダムに繰り返した後、今度は、何の掛け声もなく誰かの動作(Go, Stop, Melt) で全員がそれに呼応します。
心理的安全性が保たれ、誰がリーダーなのかわからない瞬間が訪れる
不思議なことに参加者の息が合ってくるとまわりから、そして参加者からも誰がリーダーなのかがわからない瞬間がやってきます。これがアンサンブルの状態です。
この状態は、参加者全員がリーダーとして、またフォロワーとして貢献しようとしている状態です。即興コメディや演劇の舞台に例えれば、最高のシーンを作るために演者全員がそのことに集中している状態です。
インプロではリーダーを必要としない、とまでは言いませんが、Google の研究が指し示すように、理想の「リーダー像」はステロタイプに言われてきた「強力は個」ではないことがわかります。それは、強力な個、ではなく「部下が最大の成果を挙げるための場作りができる人」であり、「革新的なプロダクトは、一人の突出した上司がいるチームではなく、同じスキルレベルを持った部下たちが相互に刺激し合うチームから生まれやすい」ということで、それはインプロのトレーニングや壮大なデータが物語っているのです。
これからのリーダーは強力な個ではなく、アンサンブルを目指せ
残念ながら、現在苦しんでいる上司・リーダーはこの「強力な個」に悩まされている気がします。上司はこうあるべき、リーダーはこうあるべき、という姿に押しつぶされそうになっているのではないでしょうか。
もちろん、国のリーダーや大企業のトップという意味では、「強力な個」は、重要です。しかし、1プロジェクトのメンバーをまとめていく、という意味では、あまり求められていないことがデータによってもわかりました。また、インプロが新たなリーダーのあるべき姿を体験させてくれると共にフォロワーシップのあり方にも気づかせてくれます。
最後に、アメリカはスティーブ・ジョブズという強力な個を発揮したリーダーを排出しました。しかし、アメリカにおいてもスティーブ・ジョブズは「たった一人しか排出できていない」、という見方もできます。ジョブズの「強力な個」は、数々の素晴らしい製品を生み出しました。しかし、彼の推し進めたプロジェクトの全ては、無数のリーダーシップとフォロワーシップで支えら、実現したのです。
今回の Google の研究結果は、そんなことを思い起こさせてくれる素晴らしい研究でした。
心理的安全性、そしてアンサンブルへ
日本即興コメディ協会では、心理的安全性やアンサンブルを体験できるワークショップを開催しています。詳しくはこちらを御覧ください。