キングオブコントは、今回で9回目を誇る TBS などが主催する人気のコントコンテストです。毎回2000組以上のプロ・アマのお笑い芸人が優勝賞金1000万円を目指し争います。9回目の今大会は2510組がエントリーし予選を戦い、10組が2016年10月2日に生放送される決勝に進出しました。
厳しい予選を勝ち抜いたキングオブコント2016 の決勝進出者は、以下の10組です。(※エントリー番号順)
- ライス (所属: よしもとクリエイティブ・エージェンシー)
- かまいたち (所属: よしもとクリエイティブ・エージェンシー)
- タイムマシーン3号 (所属: 太田プロダクション)
- ジグザグジギー (所属: マセキ芸能社)
- ジャングルポケット (所属: よしもとクリエイティブ・エージェンシー)
- かもめんたる (所属: サンミュージックプロダクションGET )
- だーりんず (所属: SMA NEET Project )
- ななまがり (所属: よしもとクリエイティブ・エージェンシー )
- しずる (所属: よしもとクリエイティブ・エージェンシー )
- ラブレターズ (所属: ASH&Dコーポレーション )
こうしてみると、やはり吉本興業(正確には「よしもとクリエイティブ・エージェンシー」)の所属芸人さんが5組と突出しています。所属お笑い芸人が多いということで割合的にはそれほど驚くことではありません。
所属事務所以外でいうと、今回はコンビ、トリオ名のほとんどがひらがな、カタカナというのも面白い共通点だと思います。10組で漢字はタイムマシン3号の「号」の一文字だけというのも興味深いです。人気商売ですので、覚えやすい、親しみやすい、という利点はあるかも知れません。
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10組のうち4組に共通する『即興』
さて、そんな中、所属事務所やコンビ名を超えた、全員ではないですが、興味深い共通点があります。それは「即興」です。
多くのお笑いライブやイベントを主催する K-PRO の「ワラインプロ」という開催25回を誇る人気即興コントショーがあります。今回の決勝進出者の中にそのショーの出演経験者が、ライス、かもめんたる、しずる、ラブレターズの4組もいます。しずるは1回だけの出演のようですが、他の3組は常連出演者となっています。
もちろん、即興コントショーの出演経験だけでキングオブコントの決勝に進出できるわけではありません。しかし、近年この3組が安定的にキングオブコントで力を発揮していることを考えると、無関係とは言い切れないのではないのでは、と思えてきます。
即興コメディには、それを成り立たせるため、そしてその訓練としての様々なゲームがあります。600種類とも1000種類とも言われていますが、その中から最適なものを選択し、ショーの中に織り交ぜていきます。これらのゲームはショーのためにもあるのですが、訓練手法でもあるのです。そこでお笑い素人ながら、「即興=インプロ」の効用というのを考えてみました。
表現力
即興は表現力を演じることにもたらしてくれます。もちろん、コントには出演者本人、もしくは作家さんが練りに練った、台本があります。しかし、台本通りに演じている雰囲気を消しよりリアルに演じるには、即興が効果的なのです。マーティン・スコセッシ監督は映画をほぼ即興で撮るといわれています。もちろん原作やストーリーの筋はあります。しかし、各場面のセリフの一言一言はその役になりきった役者同士の心から絞り出されたセリフなのです。これが迫真の演技を生むのです。
本番力
キングオブコントは一発勝負の連続です。1回戦、2回戦。。。と駒を進めるには、一発勝負に本来の力を発揮しなければなりません。セリフが飛んでしまうことや相手がつまることもあります。そんなハプニングやプレッシャーを跳ねのけるために即興の経験や訓練が役に立ちます。もともと舞台演劇の訓練手法として確立されたものですので、これらの力は即興コントショーを重ねるごとに自然と身についた可能性はあります。
また、即興の基本姿勢である、未来に何が起こるかはわからない、過去に囚われすぎない、「今を生きる」という考え方「be a present」で本番に挑んでいるとしたら、何にもとらわれず「今」に集中し、実力を発揮できているのではないのでしょうか。
創造性
この4組のコントの制作方法を知らないため、想像になってしまいますが、もし彼らが即興で作り上げていく、という方法を取っているとすると、即興は思いもつかないような笑いのアイデアを提供してくれているのかもしれません。
即興は、予め考える余地を無くし、瞬間瞬間に発想されたアイデアをぶつけ合ってすすみます。Yes, And と言われる即興手法の基本精神には、「相手のアイデアを一旦肯定的に受け入れ、アイデアを付け足して返す」という意味があります。一人でアイデを考えるのではなく、複数人でアイデアを紡いていくこれらの手法は欧米ではビジネスの世界にも応用され、イノベーションのためのブレーンストーミングやデザイン思考などに積極的に活用されています。彼らも即興で想像し、即試すことでコントをよりよいものにブラッシュアップしている可能性があります。
深い洞察と気づき
即興は間違いなくお笑い芸人にとって身になる訓練手法です。しかし、スポーツのトレーニングのように、コレぐらいやればタイムやスコアがこれぐらい伸びる、といった測れるようなものではありません。全ては「体験」からくる深い洞察と気づきなのです。
陸上で言えば100mのタイムを縮めていくトレーニングではなく、オリンピックの舞台を想像しあたかもその場を走っているような体験を擬似的作り出し、それを本番のパフォーマンスに活かすようなイメージです。
これは前述している「本番力」にも影響するのはもちろんですが、様々な実験や創造性豊かにアイデアをぶつけ合うことで深い洞察と気づきを得、より良い作品を生み、そしてそれを本番で発揮する。そんな力が働いた結果がキングオブコントの決勝進出といったことに影響を与えているのかもしれません。
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日本即興コメディ協会
今回は、キングオブコント2016の決勝進出者の意外な共通点について書いてみました。
最後にご紹介した即興コントショー「ワラインプロ」で進行と即興音楽を担当しているのが、当協会の副代表の二人、お笑いコンビモクレンの野村真之介、矢島伸男です。また、今回1回戦を突破した東京アバンギャルドの丸沢丸さん(写真中央左)は、芸人インプロ部の常連出演者で、当協会の登録コメディアンです。
当協会では、お笑い芸人向けに「芸人インプロ部」という即興コントショーを開催しています。こちらもワラインプロに引けを取らない26回の開催を数えるショーになっています。また、今回ご紹介したような即興手法を一般の人向け応用した「ユーモアスキル養成講座」や「応用インプロワークショップ」を提供しています。ご興味ありましたら、気軽にお問い合わせください。